GOTOGIN（ゴトジン）

森を行くうねり道をしばらく進み、一気に視界が晴れたかと思うやいなや現れる、浜辺に穏やかな弧を描きながらかがやく、エメラルドグリーンの海。波に揺れる、玉砂利の音が静かに響く海辺を見つめるように、福江島の半泊教会は小さく佇んでいる。隠れキリシタンが、弾圧から逃れてこの里を拓いてから、およそ300年。そのうち1922年から100余年、里と人々を見守ってきた教会は、今は御年83歳を迎えるのだという淑女がただ一人、祈りを捧げる場となった。
「優しく温かな人々、苦しく慎ましく、でも楽しく過ごしてきた人々の暮らし、青緑に澄んだ海、深緑の山々、潮風の香り。半泊で繰り返されてきた自然と人々の美しい営み、慈しみを描きたい」。そう言って教会のとなりに画家、ではなく“東方の三賢人”がやってきた。もとい、東方から巡りきた3人の“ジン・クラフターズ”である。

街の物語に溶け込むように、教会建築の技や、高窓のステンドガラスが光る蒸溜所には、世界最高峰・アーノルドホルスタイン社製のジン専用蒸溜器が天井高く配され、その脇をいくつものタンクが囲んでいた。なかには、ジンの“キャンバス”となる無味無臭のニュートラルスピリッツ、それぞれを最適な工程でクリアに抽出した、17種類のボタニカルを使った20種類の原酒が入り、キャンバスに色を加えるように香りを重ねることで五島の風景をジンに変換する、芸術的な鬼頭さんのブレンドを待ちわびていた。主にはジュニパーベリーやラズベリー、五島産のゆずでフローラルに香らせるジン。なかでも全体の味わいを優しく底支えするという、どこか五島の人々の気質にも似た椿、その種や葉を要とし、里に降りる超軟水の湧き水とともに、伸びるように続く複層的かつ繊細な余韻を生み出している。その味を正確に味わうなら、飲み方はストレートやロック、レモンは添えず、濃いめのハイボールで。その時、美しい潮風を感じたなら、ぜひそのワケをたずね、まずは島への航路を辿ってみてほしい。